C・ブッシュ「完全殺人事件」


 重厚な筆致で書かれた、感動的な傑作! 鉄壁のアリバイは「替え玉」によるもので、その他の小細工、一切無し。今の目から見ると正攻法と言うか工夫が無いと言うか、ほとんど無骨とも言えるものなのだが、全くしらけない。それどころか、ずっしりとした読後感がある。替え玉に使われた男の悲劇が、簡潔ながらも、枠として効果的に、しっかりと書き込まれているからである。真犯人のパーソナリティも(僅かに「赤毛のレドメイン家」を思わせるところがあるが)魅力的で、彼の逃亡と事故死、それに続くエピローグとも、実に余情豊かである。犯罪現場の平面図一葉、地図ニ葉が挿入されているが、ほとんどなんの関係も無し。[;^J^] 結構なミスディレクションであった。111頁に、「九文字で書かれた神学上の論文は『ウパニシャッド』である云々」という記述があるが、九文字で全ての神々の名を記述する「90億の神の御名」(クラーク)と、同じ元ネタなのだろうか?

*創元推理文庫


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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