ボアゴベイ「海底の重罪」


 黒岩涙香による翻案。「法廷の美人」と(恐らく帝国図書館の司書によって)合本にされている。初出データは、タイトルの他は、合本の背表紙の「大川錠吉著」という意味不明の記載と、涙香の前口上のみ。版元も出版日も不明。カードには辛うじて出版日(か納品日)と思われる日付が記載されているが..という不平不満は置いておいて、いざ読み始めると、これがやめられない止まらない! 凄い筆力である。その流麗な文体は、旺文社文庫版の「死美人」で知ってはいたが、これは字もつまり気味で、物理的に少々読みにくい点もあったのだが、本書は字がやや大きく、かつ、総ルビ。この効果は大きい。(海底からの)宝の発掘が絡む点が、「モンテ・クリスト伯爵」を遥かに想わせぬでもない、堂々たる復讐譚。後半、復讐者はパリの上流階級に潜入するのだが、ここは「モンテ・クリスト伯爵」とは異なり、貴族として登場するのではなく、給仕に化ける。トリックとしては、最初の殺人事件のアリバイ工作が、自転車による高速移動、というものである。いかにも素朴だが、スキーを使おうが、飛行機を使おうが、本質は同じである。

*帝国図書館 傑作叢書第六編


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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