N・ブレイク「野獣死すべし」


 動機も機会もある少年が、無神経に理不尽に嫌疑から外されていれば、例え「***」を読んでいなくても、第1部の日記が無くても、彼の犯行であるということは自明ではないか、ちぇっ、と、読み進めていたら、綺麗に返された。ちぇっちぇっ。[;^J^] 発見されたら身の破滅である日記を、危険を犯して書き続ける理由が、最初の数頁で説明されている点(要は、自白どめのガス抜き)だけでは、いかにも不自然であったが、これがターゲットに発見されることを想定して、彼の行動をこれによってコントロールしていた、というのは、巧妙である。一種の記述トリックと言うべきか。息子をひき殺した男を探し出して、事故死に見せかけて殺そう、という復讐譚が、それに失敗した直後に、当の轢き逃げ犯が殺されてしまった、という逆転を経て、(殺害計画を記した文書を残してしまったが故に、冤罪を負わされるという)浜尾四郎の優れた短編にしばしばみられるパターンに切り替わる。そして、再度逆転する。構成は実にぎこちない。なんと言うか、空気がしばしば変わるのである。一流半の佳作。「もしかしたら無実の人間を殺すかもしれないという逡巡の中に、罪は顕れていたのさ。」(282頁)「そこでぼくは考えた、いったいヨット計画はなぜ必要だったのかと。答はジョージから自白を引きだすためと出た。」(286頁)

*ハヤカワ・ミステリ文庫


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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