確かに、推理小説を皮肉った内容である。色々と不自然な状況下で(これも皮肉か?)殺された大実業家を殺した犯人?は、その秘書である、と、名探偵が結論を出す。少なくとも、誰が見ても不自然で不審な行動を取った事が立証される。ここまでが前半。その後、彼を逮捕もせずに話の進行が止まるので、どうなるのかと思ったら、その秘書に釈明させる。一切はその被害者の罠で、彼を死刑台に送るために、徹底的に不審な行動を取るようお膳立てをして、彼に殺されたと装って、自殺したのである(これも不自然!)。探偵は敗北を認め(かれの行動は解明出来たが、その理由には思い至らなかったから)、未亡人と婚約する。この後さらに逆転があり、実は自殺ではなかったのである。別の男が(半ば事故で)死なせてしまうのだが、以前、被害者に対して死んでしまえ式の悪態をついていたので、嫌疑を受けるに違いないと、自殺に擬装した。二段構えの皮肉だが、皮肉のための皮肉ではなく、真相を暗示するヒントは、フェアに呈示されている。しかしやはり構成には難がある。モロイ(脆い?[;^J^])卿とか、マーチ警部とかが、前半で姿を消してしまうのは、物足りない。
創元推理文庫Last Updated: Jul 15 1995
Copyright (C) 1994/1995 倉田わたる Mail [KurataWataru@gmail.com] Home [http://www.kurata-wataru.com/]