M・アリンガム「判事への花束」


 被告マイク・ウェッドウッドが無罪放免になる手続きは気に入らない。この程度のことで、殺人事件の被告を釈放していいのだろうか。事件の真相は、ジョン・ウィドゥスンがポール・ブランドを(それなりのアリバイ工作をしつつ)謀殺し、卑しい男リゲットが、その結果を「覗いてちょっかいし」、結果的にマイクに容疑がかかったというもので、終盤の少し手前で、真相は明らかになる。最後に残った謎は、ジョンは自殺か他殺か、という問題で、ここで事件の20年前に起った一族の一人の失踪事件(不気味な通奏低音となっていた)が効いてきて、その兄弟の同様の失踪から、彼の犯行が暗示されたまま終わる。一生を本と原稿に埋もれて過ごした男が、失踪してサーカスのピエロになる、というのは素晴らしく(絵空事的に)リアルである。しかし、失踪方法(ハイジャンプ)には、リアリティのかけらも無い。[;^J^] どことなく「月長石」に雰囲気が似ている。

*早川ポケットミステリ


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Jul 15 1995 
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