付録A:私撰ベスト10


*1.H・H・エーヴェルス「蜘蛛」(『怪奇小説傑作集』)

 まさに完璧な傑作。怖いと言うよりは、むしろ美しい。ギリシア神話にまで遡る、人類史上不滅のライトモティーフの、鮮烈極まりない映像化。

*2.ラヴクラフト「アウトサイダー」(『ラヴクラフト全集3』)

 論理的には完全に破綻しており、それは、そもそもこの物語が成立し得ないほどの大欠陥なのだが、それが全く問題にならない、という一点からも、この作品の「凄味」が判ろうというものである。個人的には、ラヴクラフトには今ひとつ乗り切れないのだが、この異様な傑作には完全に脱帽した。ベストテンからは惜しくも洩れたが「ダンウィッチの怪」なども同様。

*3.A・ブラックウッド「柳」(『幻想と怪奇』)

 こういうSFとの境界作品は、好悪がわかれるであろう。境界線上ではあるが、合理的な説明が一切ない、という点で、SFとは言えない。で、物語自体は、境界線ならぬ「ボーダーランド」パターンである。この古色蒼然たる秘教感覚には、溺れたが最後、抜けられなくなるほどの魅力があると思うのだが。

*4.上田秋成「雨月物語」

 特に「白峯」と「吉備津の釜」が、世界に誇るべき恐怖の傑作である。後者の同類は西洋にもあるが、それは凄まじいスプラッタ描写を行っており、それはそれで凄いのであるが、秋成の「暗示」の方が、遥かに恐い。

*5.ヒチェンズ「魅入られたギルディア教授」(『幻想と怪奇』)

 これは評価がわかれるだろうな..鸚鵡恐怖症の私にとっては、最悪の恐怖小説なのである。アイデアが文句無しに抜群である、と言う点については、異論はあるまい。

*6.A・ブラックウッド「いにしえの魔術」(『ブラックウッド傑作選』)

 この異様に閑静な街の、密やかな喧騒..不思議な住人たちの正体は..「恐怖」を期待すると物足りないかもしれないが、少なくとも並みの「幻想小説」20冊に匹敵する力感がある。

*7.B・ストーカー「吸血鬼ドラキュラ」

 偉大なる大浪漫! コセコセした近代小説を読んでいるのが馬鹿らしくなってしまう、必読の雄篇である!

*8.香山滋「海鰻荘奇談」(『妖蝶記』)

 この著者の作品は、出来不出来の差が激しすぎる。[;^J^] なにかスカを掴まされて以来、敬遠している人も多いのではなかろうか。この作品は、文句無しの名作なので、安心して読んでよろしい。このイメージ(というか舞台)は、のちにクライブ・バーカーの中編でも用いられている。但し、第2部は(やはり)スカに近い。[;^J^]

*9.アポリネール「オノレ・シュブラックの消滅」(『怪奇小説傑作集』)

 変身/消滅譚として、余りにも有名だが、むしろ(露出症的)エロティシズムがキーポイントではないかと思うが、如何?

*10.干宝「捜神記」

 とにかく、素晴らしい素材の集積である。

*選外.三遊亭円朝「牡丹灯籠」

 選外佳作としたのは、この作品中に占める「怪談」の要素のプライオリティーの低さ(メインの筋は、因果物=復讐譚)もあるが、それ以前に、これは本当に「怪談」なのか?と言う切口を発見してしまったからである。ネタバレになるので、詳述はしないが、(ご存じの方も多かろうが)こういうネチネチとした屁理屈/考証癖が、私の持ち味と言うものである。[^J^]


MASK 倉田わたるのミクロコスモスへの扉
Last Updated: Apr 23 2002
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