「郷愁」(ヘッセ)を想いだした。本当の意味での「超自然現象」は現われず、それは主人公(ルシアン)の魂の(ある意味では健全な)病に過ぎない。これはこの作品の本質ではない。また、ルシアンは最後に死ぬが、これも末の問題。ルシアンが、田舎では田舎なりに、都会(の場末)では都会(の場末)なりに、前者では「パン」の呪縛の元に、後者では「サバト」の悪夢の元に、その「現実」の上に被せて夢見る、壮麗な「ビジョン」(の虚しさと美しさ)が、本質であろう。そして現実のルシアンは、辛うじて一部に認められた本の一冊しか残すことしか出来なかったのである..
創元推理文庫Last Updated: Jul 15 1995
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