「雄編」という言葉は、こういう作品のためにある。「月長石」などにヒントを得たらしい、手記(日記)の接続という手法は、少々煩わしくもあるが、末の問題である。決して「吸血鬼文学」の嚆矢ではないし、「吸血鬼文学」の悼尾でもないのだが、ここに全てがある。百年もかけて、これを越えることが出来ないのである。SFにおける「タイムマシン」に匹敵する作品だと思う。ドラキュラ伯爵は、狼にもコウモリにも化け、霧となって屋内に潜入し、天候すら操る。バルタン星人顔負けの超能力の持ち主だが、昼間は(全く無力な存在として)隠れているしかない、という、負の属性が、この超絶超能力と見事なバランスを取っている。次第に吸血鬼化していく女性のテレボワイヤンスで、ドラキュラの現在地(というか、現況)をモニターしつつ、トランシルバニアの本拠地に追いつめていく終盤の展開と、最後の、雪の中での決戦の迫力! これぞ「小説」! これぞ「浪漫」!!
創元推理文庫Last Updated: Jul 15 1995
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